同時代史学会2019年度大会 シンポジウム報告要旨

「同時代史的検証としての同時代史的叙述」をめざすために -1980~2010年代における杉原達の経験と思想を検証する-

大門正克(早稲田大学)

 1970年代から90年代にかけて、日本のアジアにおける戦争が同時代及び戦後にもたらした影響の大きさにいち早く気づき、議論を重ねた研究者として、私は、内海愛子、吉沢南、杉原達に学ぶことが多かった。3人のなかで、吉沢については論じたことがあり、今回は杉原をとりあげる。80年代にドイツ帝国主義の社会意識(帝国意識)研究から出発した杉原は、その後、在日朝鮮人史と中国人強制連行に研究テーマを拡張した。杉原は、「越境」や「経験」を手がかりにして、アジアにおける戦争を問い直し、近代と知のあり方を再考してきた。報告でめざすのは、①杉原の研究過程を同時代史的に検証することであるが、②その際に杉原は、歴史における空間と時間の認識が決定的に重要であるととらえ、「越境」による空間認識の拡張と「経験」による時間認識の拡張を図ったことに留意したい。<戦争の記憶>をめぐる同時代史の歴史表現を考えるうえで、空間と時間の認識は枢要点と考えられるので、この点で議論を提供したい。

戦後日本の映像メディアにおける韓国・朝鮮イメージの変遷 -1960年代〜90年代のテレビ・ドキュメンタリーを中心に-

丁智恵(東京工芸大学)

 20世紀において映像メディアは国民的記憶に大きな影響を与え、戦争や植民地支配に関する記憶を形成する上でも重要や役割を果たした。メディアでは、長年「国家の記憶」から排除されてきたアジア・太平洋戦争や植民地主義の被害者としての韓国・朝鮮人は、90年代頃には冷戦崩壊とアジアの民主化、昭和の終焉などが重なり大きく取り上げられるが、その後右派・保守派の巻き返しを受け状況は後退し現在にまで至る。

 本報告では、1960年代から90年代頃までのNHKと民放のテレビ・ドキュメンタリーに着目し、アジアの戦争被害や植民地支配に関する表象を韓国・朝鮮を中心テーマとして描いているものを抽出し分析する。この分析により戦争の語りの内容や主体がどう変化し、その時代の日本人が過去について何を記憶し何を忘却しようとしていたのかを明らかにする。さらには、これまでの変遷を辿ることにより、近年の停滞している状況について再検討する手がかりを得ることを目指す。