2006年度年次大会に向けて
今日、日本国憲法の改正に向けた動きが急速に進んでいます。昨年11月、自民党の憲法改正案が発表され、結果的には継続審議となったものの、今年の5月には国民投票法案が国会に提出されました。世論をみても、憲法改正に賛成する意見は、容認まで含めると、多数を占めています。戦後改革の結晶であり、その後の「平和と民主主義」の支柱となってきた日本国憲法は、制定から約60年を経て、最大の転換点に差し掛かっているといっても過言ではないでしょう。
同時代史学会は、今年度の大会のテーマとして、憲法を取り上げます。歴史と現代の架橋を目指す学会として、日本国憲法の意義と限界を再検討することは避けて通れない課題だと考えるからです。問題点を安易にあげつらうような改憲論の噴出を鑑みれば、憲法の可能性と限界を冷静に指摘することが必要であることは言うまでもありません。本学会は、あくまでも学問的な歴史学の方法にこだわり、それを通じて憲法論議に示唆を与えることを目指したいと思います。
憲法をめぐる今日的状況で重要なのは、1950年代に成立した「改憲」と「護憲」という二分法に収まりきらない広がりを有していることです。そもそも国家の最高法規としての憲法には、9条に代表される安全保障や統治機構のみならず、人権、家族、教育、労働、社会保障など、様々な事柄が規定されています。また、憲法が持つ意味も、時代によって大きく変化してきました。戦後日本の総合的な歴史研究を志す同時代史学会は、若手・中堅の研究者を中心として、自由な発想から日本国憲法を多角的に検討します。
日本国憲法が持つ国際的な性格についても重視したいと思います。「押し付け憲法」論は論外としても、占領下での制定にはじまり、憲法が国際的な文脈と密接に関係しながら存在してきたことは紛れもない事実です。そのことは、平和条項にとどまらず、人権や社会保障などについても、指摘できることです。軍隊を持つのは国際的に当然である、集団的自衛権を認めて国際平和に貢献しなければならない、といった主張が強まりつつある今日、改めて国際的視座から憲法を再考することが不可欠です。
今年度の大会は、以上のような問題関心に立脚し、「同時代史としての憲法」と題して開催されます。
まず、午前の部は、「国際的文脈のなかの日本国憲法」というテーマの下、吉次公介氏(沖縄国際大学)にアメリカとの関係から、平井一臣氏(鹿児島大学)に韓国・沖縄との関係から論じていただきます。両氏はそれぞれ、アメリカと韓国での在外研究を終えられたばかりです。そして、フィリピンを中心とする国際関係史の中野聡氏(一橋大学)に司会を、日本国憲法史を国際的な観点から研究しておられる古川純氏(専修大学)にコメントをお願いしました。
午後の部は、「憲法・歴史・社会空間」をテーマに設定し、様々な分野を取り上げつつ、日本国憲法の歴史とそれを取り囲んできた社会空間について論じます。9条を中心とする平和・安全保障に関しては、新書『自衛隊は誰のものか』を書かれた植村秀樹氏(流通経済大学)、25条の生存権をはじめとする社会政策については、占領期の労働問題を研究しておられる兵藤淳史氏(専修大学)、ジェンダー・家族に関しては、気鋭の若手研究者である豊田真穂氏(関西大学)に報告していただきます。司会は日本政治史の雨宮昭一氏(独協大学)、コメンテーターには、政治理論の研究者で憲法についても造詣の深い杉田敦氏(法政大学)と、『新憲法の誕生』の著者である古関彰一氏(独協大学)をお迎えします。
午前と午後のセッションを通じ、フロアーを含めて、自由な発想、そして多様な視角から、活発な議論が交わされることを期待しています。
司会 | 中野聡氏(一橋大学) |
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報告者 | 吉次公介氏(沖縄国際大学)「戦後日米関係と日本国憲法」 |
平井一臣氏(鹿児島大学)「戦後東アジアの変動と憲法」 | |
コメンテーター | 古川純氏(専修大学) |
司会 | 雨宮昭一氏(独協大学) |
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報告者 | 植村秀樹氏(流通経済大学)「憲法第9条と終わらない『戦後』」 |
兵頭淳史氏(専修大学)「社会政策論と憲法原理 ―― 基本的人権原理と変容する福祉・雇用システム ――」 | |
豊田真穂氏(関西大学)「憲法と家族・婚姻・ジェンダー」 | |
コメンテーター | 杉田敦氏(法政大学) |
古関彰一氏(独協大学) |
会場の案内 会場は以下の地図の27番です
http://www.waseda.jp/jp/campus/nishiwaseda.html