同時代史学会は、昨年の12月に創立10周年を迎えました。本会は、「冷戦」の終焉に代表される現代世界の激変の中で、「同時代としての歴史」から何を学び、何を継承すべきなのかを、同時代史そのものの研究を通じて考える場として設立されました。そして「占領史研究の豊穣な成果を継承し、史資料に基づく実証性に執着しながら、世界史の文脈と比較の視座を重視して、専門分野を横断する総合的な同時代史の創造」を目標としてきました。
それから10年がたち、日本の同時代史研究は大きく様変わりしました。占領期から1950年代を中心としていた歴史研究の射程は、1960年代から80年代へと大きく延伸され、新たな視角にたった多くの研究が登場するようになりました。また近年では、高度経済成長期を対象とする共同研究の成果も相次いで登場しています。2000年代に本格化した同時代史研究は、今日、その最初の開花期を迎えているともいえるでしょう。そこで本年度の大会では、「歴史としての高度成長」というテーマの下に、進展が著しい高度経済成長期研究の中間的総括を試みたいと思います。
そもそも高度経済成長期は、1990年代まで、「現在」に直接する時代と考えられ、それゆえ現状分析的研究の対象とされてきました。しかし「冷戦」後におけるグローバリゼーションの進行、新自由主義の台頭、それに照応した内外の政治体制の変容などが明確となるなかで、高度経済成長期を「歴史として」研究する条件が生まれました。こうして歴史研究の対象に据えられた高度経済成長期は、それ以前の日本社会と、「現在」の中間に位置する時代であり、同時代史全体の「展望台」(中村政則)としての位置を占めるものでもあります。本大会では、こうした高度経済成長期研究の成果を検討することを通じて、同時代史研究の今後の課題を明らかにすることを目ざします。
このような意図の下に、本大会では武田晴人氏(東京大学)と下村太一氏(神戸学院大学)のお二人に、報告をお願いしました。武田氏は、『高度成長』(岩波新書、2008年)や『高度成長期の日本経済』(有斐閣、2011年)などの著作を通じ、日本人に「経済成長の神話」を浸透させた高度経済成長期固有の構造を論じられています。また下村太一氏は、『田中角栄と自民党政治』(有志舎、2011年)において、自民党における田中角栄の台頭を、1960年代の自民党が直面していた課題との関連で検証されています。お二人には、経済史・政治史それぞれの立場から、高度経済成長期研究の到達点について論じていただきます。
また今回は、大門正克(横浜国立大学)・小澤弘明(千葉大学)にコメンテータをお願いしました。コメンテータの方々には、武田・下村両報告を踏まえつつ、高度経済成長期研究に関する問題提起を行っていただきます。
会員のみなさんの積極的な参加により、活発な議論が展開されることを期待しています。
※山本報告の論題が変更されました。