25
8月

2024年度大会「空襲/空爆とその記憶の同時代史(仮)」

2024年度大会「空襲/空爆とその記憶の同時代史(仮)」

日時

2024年12月7日

会場

駒澤大学 駒沢キャンパス 3号館(東京都世田谷区駒沢1-23-1)

全体会 13:30~17:30

<報告者>

長志珠絵(神戸大学)

「防空と銃後」(仮)

千地健太(東京大空襲・戦災資料センター学芸員)

「東京大空襲における朝鮮人の空襲被害ー実態、証言、展示ー」

<コメント>

田中利幸(歴史家)

伊香俊哉(都留文科大学)

趣旨文

空襲/空爆とその記憶の同時代史(仮)

空爆による無差別大量虐殺は、第一次世界大戦から本格的に始まり、第二次世界大戦を経て、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、コソボ紛争、アフガン・イラク戦争、シリア内戦、そして現在もなお続くロシアのウクライナ攻撃やイスラエルのガザ地区攻撃に至るまで、およそ100年以上にわたって連続している。

 第一次世界大戦後に戦略爆撃を体系化したイタリアの将軍ジュリオ・ドゥーエは、空爆は「残虐な特性にもかかわらず流血が少ないので、高い立場から見れば従来の戦闘よりも人道的である」と述べて、無差別爆撃を正当化した。加害者研究においても、被害者との物理的・心理的距離は罪責感を麻痺させ、加害行為を容易にすることが指摘されているが、「高い立場」から爆撃を命令し、爆弾投下を可能にした20世紀以降の「空の戦争」は、爆撃の下で苦しむ無数の人々の視点を完全に欠落させることで行われてきた。1970年代以降の空襲記録運動とその継承活動は、爆撃を受ける側の「空襲」の視点に立ち、こうした「高い立場」から攻撃を加える「空爆」を批判的に捉え返す営為であり、現在進行中の空爆の下で起きている現実と、今後長期にわたって続く破壊的な影響を人類につきつけている。

 一方、これまでも度々指摘されてきたように、帝国主義の時代に誕生した飛行機が初めて戦争の兵器として利用されたのは、バルカン半島と北アフリカでの植民地戦争からであり、日本も1930年に植民地統治下の台湾で起きた霧社事件の際に、空爆による大規模な「鎮圧」作戦を行った。また、十五年戦争において日本は、アメリカによる無差別爆撃の被害を受ける前に、錦州や南京、重慶に無差別爆撃を行う加害国でもあった。さらに、連合国軍側の攻撃対象は、大日本帝国の植民地や東南アジア各地の日本軍の拠点、「満洲」の満鉄沿線の工場地帯に及んだ。それだけではなく、原爆が投下された広島・長崎と同様に、東京や大阪などの大都市には、戦時労働力として動員された植民地出身の人々が居住しており、多くの人々が空襲の被害を受けた。彼らの被害はこれまであまり語られてこなかったが、被害の実態調査や、「創氏改名」後の日本人名で慰霊碑に記録されてきた名前を本名に変更する取り組みなどが近年市民活動によって進められている。彼らがなぜそこにいたのかをふまえれば、「日本国民の被害」として均質化されがちな空襲経験を、植民地支配責任の観点から再度捉え直す必要があるだろう。

 以上をふまえて、一人目の報告者である長志珠絵氏には、戦時下の「防空」の動員・管理の対象であった女性や植民地出身者について報告していただく。また二人目の千地健太氏には、東京大空襲戦災資料センターにおける朝鮮人被害者に関する展示の経緯について報告していただく。両報告を通じて、空爆/空襲論においては、顔も名前もない集合的な死者として、あるいは「庶民」「民衆」「日本人」として括られがちであった空襲言説をジェンダーと植民地主義の観点から再考する場となるであろう。また、コメンテーターは伊香俊哉氏と田中利幸氏に依頼した。

空襲/空爆の問題は、現在の日本社会とも無縁ではない。日本政府は植民地戦争や植民地支配に起因する空襲の被害者、中国への侵略戦争の際に行った爆撃の被害者に対する謝罪や賠償を行っておらず、国内の空襲被害者についても、「戦争被害受忍論」を理由に補償を拒み続けている。また、朝鮮戦争・ベトナム戦争の際には、在日米軍基地は米軍機の出撃・補給基地として無差別爆撃に関わった。そして、現在進行中の空爆による無差別大量虐殺を止めることができていない。本シンポジウムが、20世紀初頭から現在まで続く、無差別大量虐殺とその不処罰の歴史に抗するための議論の場となることを期待したい。

<主要参考文献>

荒井信一『空爆の歴史―終わらない大量虐殺』岩波書店、2008年。

伊香俊哉『戦争はどう記憶されるのか 日中両国の共鳴と相剋』柏書房、2014年。

栗原俊雄『東京大空襲の戦後史』岩波書店、2022年。

長志珠絵「『防空』のジェンダー ―戦前戦後における日本の空襲言説の変容と布置」『ジェンダー史学』11号、2005年。

長志珠絵「交差する植民地主義とジェンダー ―歴史認識としての空襲」『日本思想史研究会会報』39号、2009年。

田中利幸『空の戦争史』講談社、2008年。

塚崎昌之『大阪空襲と朝鮮人そして強制連行』大阪空襲75年朝鮮人犠牲者追悼集会実行委員会、2022年。

林博史『朝鮮戦争 無差別爆撃の出撃基地・日本』高文研、2023年。

前田哲男『戦略爆撃の思想 ―ゲルニカ、重慶、広島』凱風社、2006年。

2
8月

同時代史学会2024年度大会 自由論題報告者の募集

 同時代史学会2024年度大会 自由論題報告者の募集

今年度の同時代史学会年次大会は、本年12月7日(土)、駒澤大学(東京都世田谷区)にて開催の予定です。つきましては、当日午前中に実施される自由論題報告の報告者を募集します。日頃の研鑽を発表し合い、議論を交わせる貴重な機会です。会員の皆様には、ぜひ奮ってご応募くださいますよう、お願い申し上げます。

なお、機材や運営上の観点から、本年度の自由論題については原則、対面開催となります。この点、ご承知おきください。

1.日時:2024年12月7日(土) 午前10時開始(最大13時20分終了予定)

  *御一人の持ち時間は報告40分+討論20分=計1時間を想定してください。

2.場所:駒澤大学 駒沢キャンパス 3号館

*アクセス:https://www.komazawa-u.ac.jp/access/

*キャンパスマップ: https://www.komazawa-u.ac.jp/facilities/campus/komazawa.html

3.開催形態:対面開催

4.論題:日本を中心とする第二次世界大戦期以降の歴史を主な対象とする歴史的研究全般

5.エントリー資格:同時代史学会会員であること

  *非会員で応募される方は、エントリーと同時に入会手続きをお済ませください。

   参照・本会HP「入会のご案内」: http://www.doujidaishi.org/about/admission.html

  *当日、PCを利用される方は、御自身で持ち込みを御願いします(Mac使用の場合はアダプタも含む)。

6.エントリー方法:以下の項目を、電子メールか郵送で、下記9までお知らせください。

① 報告者氏名、及び現在の所属

② 報告タイトル

③ 報告要旨(400字以内)

7.採否:理事会で審査の上、9月末日までに応募者本人に直接採否を通知します。

8.締切:2024年8月31日(土)必着

9.応募及び問い合わせ先:戸邉秀明(自由論題担当理事・東京経済大学教員)

E-mail:tobe ★ tku.ac.jp

  〒185-8502 東京都国分寺市南町1-7-34 東京経済大学 戸邉秀明 宛

*郵送の場合、封筒に「同時代史学会自由論題応募」と書き添えてください。

以上

28
6月

2024年度「NHK アーカイブス学術利用」公募開始

★2024年度「NHK アーカイブス学術利用」公募開始
NHKでは、アーカイブス保存の映像・音声を学術研究に利用していただく研究を募集しています。
採択研究者は、東京・NHK 放送博物館、埼玉県川口・NHK アーカイブス、大阪放送局の閲覧室で
希望のコンテンツを閲覧することが出来ます。
○2024年度閲覧期間 2024年10月~2025年3月 (1組30日まで利用可)
○対象者 大学、高等専門学校、公的研究所所属の職員・研究者、大学院生
○締め切り 2024年8月16日
○募集数 放送博物館 6 組、NHK アーカイブス 4 組、大阪放送局 2 組
応募要項はホームページをご覧ください。
http://www.nhk.or.jp/archives/academic/

11
6月

【告知】『同時代史研究』第18号の投稿原稿の募集について

【告知】『同時代史研究』第18号の投稿原稿の募集について
同時代史学会編集委員会

『同時代史研究』第18号(2025年9月刊予定)の投稿原稿を募集いたします。奮ってご投稿くださいますよう、お願い申し上げます。

投稿規定、審査規定、執筆要領については、同時代史学会のホームページをご覧ください。
http://www.doujidaishi.org/journal/journal_rules.html

スケジュール・投稿手続きは下記のとおりです。
2024年7月31日(水)投稿原稿のエントリー締め切り
・投稿をご希望される方は、電子メールで編集委員会宛に、名前・所属・原稿種別・題名をご連絡ください。
アドレス:journal●doujidaishi.org (「●」を「@」にかえて下さい)
・投稿原稿を提出する段階で、題名を若干修正することは認められます。
・1週間以内に返信いたしますので、万が一到着しない場合には、必ずお問い合わせください。
・会員以外の方は投稿できませんので、ご注意ください。
 なお、入会手続きはこちらをご覧ください。
http://www.doujidaishi.org/about/admission.html

2024年10月20日(日)投稿原稿・要旨提出の締め切り
・原稿と要旨(800字程度)を、1部ずつ提出してください。
・送付先は以下の通りです。封筒表紙に「同時代史学会学会誌原稿在中」と朱書きして下さい。当日の消印まで有効です。
〒464-8601 名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院人文学研究科 河西秀哉

・あわせて締め切りまでに、原稿・要旨[原則として Word(.docx あるいは.doc)]を、編集委員会宛に電子メール添付にてご送付ください。
・原則として投稿後3ヶ月以内に審査結果をお伝えします。掲載決定後は掲載決定証明書を発行できますので、ご相談ください。
・お送りいただいた原稿・電子ファイルは、厳重に管理し、査読後はこちらで破棄いたします。
・エントリー後に投稿を辞退される場合も、ご連絡をお願いします。

2025年1月 審査結果通知(予定)
2025年9月 刊行(予定)

投稿について、ご不明の点やご相談などがありましたら、電子メールで編集委員会(下記アドレス)へ問い合わせください。
同時代史学会編集委員会  journal●doujidaishi.org (「●」を「@」にかえて下さい)

10
6月

同時代史学会第52回定例研究会(院生・若手研究者修士論文報告会)

同時代史学会第52回定例研究会

院生・若手研究者修士論文報告会

June 08, 2024

同時代史学会代表/研究会委員

菊池 信輝(BXC02031 ★ nifty.com)

下記の要領にて同時代史学会第52回定例研究会を行いますので、よろしくご参加ください。

1.会場

法政大学市ヶ谷キャンパス富士見ゲート G601教室

https://www.hosei.ac.jp/ichigaya/access/?auth=9abbb458a78210eb174f4bdd385bcf54

2.スケジュールと報告タイトル

日時

・2024年7月6日(土)、13:00〜16:30(一人1時間30分)

内容

・若手研究者報告会(主に修士論文報告会として毎年開催)

報告者及び報告タイトル

 佐々木二葉氏(日本語教員)

「近代日本映画における検閲―女性の喫煙表 象をめぐって」

(13時00分~14時30分)

宮里崇生氏(日本大学大学院文学研究科教育学専攻博士後期課程2年)

「修士論文『志喜屋孝信の教育思想形成と沖縄教育—占領初期沖縄教育の基盤の形成過程に着目して—』再考」

(14時40分~16時10分)

スケジュール 

・佐々木報告

報告:13時00分~13時50分(50分)

質問の整理:13時50分~13時55分(5分)

質疑応答:13時55分~14時30時(35分)

・宮里報告

報告:14時40分~15時30分(50分)

質問の整理:15時30分~15時35分(5分)

質疑応答:15時35分~16時10分(35分)

*最大延長、17時まで

その他

・参加費:無料

*会員以外にもお声がけください。

8
3月

同時代史学会・第37回関西研究会のお知らせ

みなさま

平素は本会の活動をご支援いただき、ありがとうございます。
下記のように、第37回研究会を開催します。ふるってご参加ください。

同時代史学会・第37回関西研究会
〈報告者〉
小谷七生氏(神戸市外国語大学)「占領後期の日本における「屑拾い」の社会的位置に関する一考察:獅子文六『自由学校』(1950)に関連するメディア表象を手がかりにして」
日時:2024年3月29日(金)14:00~17:00
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室(JR京都駅徒歩5分)
   https://www.consortium.or.jp/about-cp-kyoto/access

本研究会はハイブリッドでの開催です。
対面での参加の方は直接お越しください。

オンラインでの参加の方は下記まで登録ください。

登録:https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEkcO6qqzsvEtCElf370gFyyPaVY1Nmrv3i
 
 登録後、研究会参加に関する情報の確認メールが届きます。
 参加希望の方は前日の3月28日(木)までに申込みください!
 参加費:無料(会員外の方にもお声をおかけ下さい)

配信担当:河西秀哉

2
12月

同時代史学会2023年度大会 オンライン参加登録について(12月7日締切)

今年度の同時代史学会大会は、午後の全体会、および総会のみ、ハイブリッド開催します。

自由論題報告については、オンライン配信は行いませんのでご了承下さい。

オンラインから参加される方は、12月7日(木)までに、下記のフォームから登録して下さい。(メールニュースでご案内した申込締切を延長します)

※会場においでになる方は、登録は不要です。

 ZOOMのIDは、大会・総会の当日までに、【同時代史学会2023年大会(gakkaitaikai+2023doujidaishi ★ gmail.com)】よりお送りします。

※オンラインでの大会への参加は、同時代史学会会員、および会員の紹介がある方に限定します。

※オンラインでの総会への参加は、同時代史学会会員に限定します。

【大会参加登録フォーム】

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf2BCI67WAEZpObHdLvaOOs8G2oQ3K109tqzOfv5b6tlCMegA/viewform?usp=sf_link

28
11月

2023年度大会「安定化させる力学とかき消されていく声――1973年以降の水俣から考える」

同時代史学会2023年度大会を、下記のスケジュール・テーマで開催します。

日時 2023年12月9日(土)
会場 東京経済大学国分寺キャンパス2号館(東京都国分寺市南町1-7-34)
(総会と全体会はハイブリッド開催、オンライン参加の場合は事前申し込みが必要です)

会場校へのアクセスの基本は国分寺駅南口より徒歩(所要12分)となります。
徒歩の道順、並びにバスのご利用の仕方については、以下の東京経済大学のHPを参照してください。
アクセス https://www.tku.ac.jp/access/kokubunji/
キャンパスマップ:https://www.tku.ac.jp/campus/institution/kokubunji/

タクシーをご利用の場合は、東京経済大学の「東北門」へお回りください。なお、タクシーの構内(会場建物まで)への乗り入れはできません。

参加費 無料
日程
10:00~12:00 自由論題報告(対面のみ)
12:40~13:10 総会 (オンラインによる中継を予定)
13:30~17:40 全体会(オンラインによる中継を予定)
「安定化させる力学とかき消されていく声―1973年以降の水俣から考える―」
井上ゆかり( 熊本学園大学水俣学研究センター 研究員 )
原子栄一郎( 東京学芸大学環境教育研究センター 教員 )
遠藤邦夫 ( 水俣病センター相思社 元職員 )
18:00~   懇親会

※昼食をご持参ください。
当日は土曜日のため学内食堂(生協)は閉まっており、また大学の周囲には食堂がありません。昼食については、少し歩いたところにあるコンビニでご購入いただくか、事前にご用意いただくように御願いします。もちろん、国分寺の駅前まで戻られると、食べる場所には困りません。

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11月

第36回関西研究会のお知らせ

みなさま

平素は本会の活動をご支援いただき、ありがとうございます。
下記のように、第36回研究会を開催します。ふるってご参加ください。

同時代史学会・第36回関西研究会
〈報告者〉
瀬畑源氏(龍谷大学法学部准教授)「戦後巡幸と保守政治―1949~51年」(仮)
 参考文献:瀬畑源「象徴天皇制における行幸―昭和天皇「戦後巡幸」論」(河西秀哉編『戦後史のなかの象徴天皇制』吉田書店、2013年)
      河西秀哉『天皇制と民主主義の昭和史』人文書院、2018年
日時:2023年12月17日(日)14:00~17:00
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室(JR京都駅徒歩5分)
   https://www.consortium.or.jp/about-cp-kyoto/access

本研究会はハイブリッドでの開催です。
対面での参加の方は直接お越しください。

オンラインでの参加の方は下記まで登録ください。

登録:https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZYlfu2orT0qGtw6rHcofYTdFhOjny2qlWp7
 

 登録後、研究会参加に関する情報の確認メールが届きます。
 参加希望の方は前日の12月16日(土)までに申込みください!
 参加費:無料(会員外の方にもお声をおかけ下さい)

配信担当:河西秀哉

25
10月

同時代史学会2023年度大会 自由論題 報告一覧(事前要旨含)

同時代史学会2023年度大会 自由論題 報告一覧(事前要旨含)

*以下、会場ごとに、報告の①タイトル、②報告者(名前のよみ/所属等)、③要旨、の順で掲載しています。

*A~Eの全5会場は、すべて東京経済大学2号館の2階教室となります。

*開催形態は、全5会場とも、対面のみとなります。

A会場[B202[小教室]]

報告A-1

① 馬の食料化から考察する沖縄戦飢餓:沖縄島北部と宮古島の事例から

② 謝花直美(じゃはな・なおみ/同志社大学〈奄美₋沖縄₋琉球〉研究センター嘱託研究員)

③ 沖縄戦で飢餓をしのぐために馬を食べたという住民証言は多い。戦前には馬は沖縄各地の日本軍飛行場建設のための徴発、食糧増産の農耕、戦闘直前には住民立退き・避難の荷物車運搬に活用された。住民は所有する家畜の扱いにも制限を受けた。食糧確保が課題となった持久戦準備のために、沖縄県は家畜数を把握し所有者の自由屠畜を禁止した。管理が強化された家畜は豚の場合、連合軍侵攻前に多くが保存食糧にされたと考えられる。一方の馬については、日本軍徴発後からすでに食糧化が始まっており、戦争進行により統制・秩序も崩壊し 、飢餓拡大とともに住民もまた役畜であった馬を食糧としたと考えられる。本報告では、沖縄戦の飢餓拡大と深刻化を「馬を食べる」ことから明らかにしつつ、日本軍と住民、住民同士の対抗的関係について、立退き・避難地となった沖縄島北部と馬産地宮古島の例を通して考察する。

報告A-2

① 「戦後」台湾の経験と日本の社会運動:ライフヒストリーからの考察

② 松田京子(まつだ・きょうこ/南山大学人文学部教員)

③ 日本による植民地統治下の台湾で、植民地政府による学校教育を受けた台湾の人々のなかには、「戦後」の台湾で起こった二二八事件、その後の50年代白色テロルによって、大きな被害を被った人々がいる。「政治受難者」である彼ら彼女らは、例えば釈放後も日常生活の中で様々な困難を経験し、さらなる政治的な「受難」に直面する場合もあった。そのような中で、彼ら彼女らにとって日本語は「思考し表現するための主要言語」(洪郁如『誰の日本時代』法政大学出版局、2021年、p.6)であったといえる。日本統治期の経験は、ポストコロニアル状況の中で、彼ら彼女らにどのような影響を与えたのか。また彼ら彼女らにとって、「日本」とはどのような存在であったのか。また彼ら彼女らの「受難」に対して、「戦後」日本の社会運動はどのように向き合い、どのように関わったのだろうか。これらの問題を、ある夫妻のライフヒストリーにそって、具体的に考察してみたい。

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B会場[B203[小教室]]

報告B-1

① 占領期検閲と高群逸枝の女性史学

② 蔭木達也(かげき・たつや)

③ 近年、連合軍占領期検閲に関する研究が進展している。しかし、歴史学系の著作における占領期検閲の影響についての研究は、戦中と戦後の断絶に鑑みて、検閲の研究を分析する作業が困難な部分がある。戦中期に皇国史観を掲げた研究者は戦後、著作を発表する間も無く追放され、占領期検閲の影響を辿ることは難しい。逆に、津田左右吉など戦中期は弾圧されていて戦後すぐに活躍した歴史学者は、占領期検閲で大きな問題となるような論述をする必要がなかったため影響がわからない。占領期検閲の影響が最も強く現れるのは、戦前に皇国史観に近い立場から天皇に関する研究を行い、しかし戦後占領期検閲の影響を受け、自説に修正を加えて歴史研究を続けた歴史研究者に限られる。そこで本報告では、一九三一年から歴史研究の道に没頭し、戦中期も研究成果を書籍や論文で発表し、戦後まで継続的に日本女性史の研究に取り組んだ高群逸枝を取り上げ、GHQとの関わり、著作出版の経緯などを分析し、占領期検閲の歴史学への影響の一端を明らかにすることを試みたい。

報告B-2

① 毛呂清輝の戦後における言説

② 蓬田優人(よもぎた・ゆうと/東北大学大学院文学研究科博士後期課程)

③ 毛呂清輝(1913~78年)は、戦前から戦後にわたる昭和期に活動した「右翼」または「昭和維新」運動家である。國學院大學に在学中、神兵隊事件に参加した彼は、戦前期には大日本生産党や維新公論社等の組織に関与し、戦後には、機関誌『新勢力』の主幹を務め、同誌において影山正治や葦津珍彦、または鈴木邦男等、広く昭和期の右翼・愛国・保守運動を牽引した人物を、論客として多く呼び寄せた。

 毛呂が積極的に自らの思想を発信・展開するのは、戦後(公職追放の解除)を迎えてからである。自らが携わる『新勢力』をはじめとするメディアにおいて毛呂は、戦後日本における「国民運動」としての「昭和維新」を模索・提起したが、これまでその思想・活動について殆ど顧みられることがなかった。本発表では『新勢力』の他、『共通の広場』等のメディアにおける毛呂の言説を取り上げるとともに、「昭和維新」運動史上での毛呂の位置を明らかにする。

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C会場[B206[中教室]]

報告C-1

① 知識人たちの内灘闘争と内灘試射場返還

② 宮下祥子(みやした・しょうこ/立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員)

③ 全国初の本格的な反米軍基地闘争として知られる内灘闘争(1952~53年)は、戦後日本の通史では必ず言及されるものの、本格的な歴史研究の対象とされる機会は稀であった。本報告は、清水幾太郎を中心とする論壇知識人と金沢在住知識人たちの議論を手がかりとして、内灘闘争および内灘試射場返還(1957年)の内実に、従来の歴史叙述とは別の角度から光を当てるものである。

 闘争時、外部の知識人・革新政党・労組・婦人団体等が盛んに内灘を訪れて重要なアクターとなったが、彼らの多くは、米軍基地問題の根本要因をなす日米安全保障条約の破棄を究極の目標としていた。他方で、内灘砂丘・海面の接収「絶対反対」を叫んだ内灘村民のほとんどは零細な農漁民であり、彼らにとっては生活権の擁護こそが差し迫った問題であった。両者の異質性は闘争の結末に決定的な影響を及ぼしたが、そこに向き合った知識人の議論と関与を明らかにすることで、闘争の再考を試みたい。

報告C-2

① 反戦・反軍運動と女性解放運動が交わる時:1970年代初頭の沖縄におけるウィメンズハウス

② 大野光明(おおの・みつあき/滋賀県立大学人間文化学部准教授)

③ 1972年秋、沖縄県コザ市にウィメンズハウスというスペースが米国のベトナム反戦運動団体パシフィック・カウンセリング・サーヴィス(PCS)によって開設された。PCSは1969年にカリフォルニア州で活動を始め、反戦意識をもつ兵士の抵抗をさまざまなかたちで支援していた。その後、PCSは米国西海岸の諸都市へ、そして1970年春以降には東京、沖縄、岩国、フィリピンなどへと活動拠点を広げた。ウィメンズハウスは沖縄駐留部隊に所属する女性、男性兵士の妻子、日本のウーマンリブ活動家、沖縄の女性などが、女性としての抑圧について自らの経験に即して話し、考え、解放を求めるスペースとして運営された。本報告では、ウィメンズハウスがなぜ、どのようにつくられたのか、また、どのような活動が行われたのか、文書資料とオーラルヒストリーから明らかにする。越境する女性運動と反戦運動の歴史を交差させ、70年代初頭の沖縄での取り組みの歴史、内容、意味を検討する。

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D会場[B204[演習室]]

報告D-1

① 1960年の日玖通商協定の締結と池田政権の対キューバ「独自路線」

② ロメロ・イサミ(ろめろ・いさみ/帯広畜産大学准教授)

③ 1959年の革命の勝利後、池田政権 (1960〜64年) は、米国の敵国であったにもかかわらず、日本はキューバに対して「独自路線」を展開した。なぜ日本はこのような外交を打ち上げたのか。先行研究では、日本のキューバ糖依存が強調されている。当時、キューバは日本の砂糖輸入先国の1つであった。そして1960年に締結した日玖通商協定によって日本政府は、キューバが価格競争力を維持する限り、年間45万トンの砂糖輸入をコミットメントしたのだ。したがって、1961年に米国政府が池田政権に対キューバ「封じ込め」政策への協力を求めたとき、日本は協力できなかった。国交を断絶すれば、国内砂糖が減少する可能性があったのである。

 しかし、田中高が2012年に『ラテンアメリカ・レポート』誌で掲載した論文「日本キューバ貿易小史-通商協定締結の軌跡」を除いて、日玖通商協定を1次史料で検証した研究は存在しない。本報告では、日・米・キューバの外交史料を軸に、池田政権の対キューバ「独自路線」に影響を及ぼした日玖通商協定の締結過程について論じる。

報告D-2

① 1982年歴史教科書問題発生時の日韓の反応と共同研究の流れ

② 谷口綾美(たにぐち・あやみ/南山大学大学院国際地域文化研究科国際地域文化専攻博士後期課程)

③ 本研究では、1982年に起こった歴史教科書問題について取り上げる。日韓の両国政府と政治家の動きは、先行研究を参照しながら、国会議事録、新聞記事を資料として分析した。世論の動向を知るための手段としては新聞記事を資料とし、それぞれ発行部数が第一・二位を占めている、日本の「読売新聞」「朝日新聞」、韓国の「朝鮮日報」「東亜日報」を分析対象とした。研究者の動きについては、先行研究の読み取りに加え、両国の関連学会の機関誌に掲載された声明等の分析を行った。

 また、このような摩擦を乗り越えるため、歴史共同研究の動きが活性化する傾向が見られた。これについては、先行研究や共同研究に参加した研究者が書いた文章に加え、共同研究の成果物として出版されている教材等を資料として調査を行った。対立と、乗り越えようとする動きの両面を見ることで、今後の日韓間における歴史・教育研究の道標を作るための一つの材料となることを目指したい。

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E会場[B205[演習室]]

報告E-1

① 江藤淳と1980年代初頭の憲法論争

② 多谷洋平(たや・ようへい/立命館大学大学院社会学研究科応用社会学専攻博士課程後期課程)

③ 本報告では、文芸評論家・江藤淳(1932~99年)が、自身のGHQ占領期の研究と関連する形で行った日本国憲法をめぐる主張と、それに対するメディア上での知識人の反応に焦点を合わせ、1980年代初頭における憲法論争を再検討する。

 1978年、文芸評論家・本多秋五らと第2次世界大戦における日本の降伏形態をめぐって、「無条件降伏」論争と呼ばれる論戦を繰り広げた江藤は、翌1979年10月から、米国ワシントンDCのウィルソン研究所を拠点に、占領期の言論検閲に関する資料の検索と検討を精力的に行っていく。また、江藤は言論検閲の研究と並行して、日本国憲法に関しても主張を行い、この点においてもメディア上で論戦が展開されていくこととなった。

 本報告では、江藤の日本国憲法をめぐる主張を整理するとともに、当時の知識人たちが江藤の議論にどのような反応を行ったのかを確認することで、1980年代初頭における憲法論争がいかなる意義を持つものであったのかを考察したい。

報告E-2

① ポスト冷戦移行期「日本」の自画像:「湾岸戦争に反対する文学者声明」をめぐる議論を中心に

② 名合史子(なごう・ふみこ/東京外国語大学大学院博士前期課程)

③ 1991年湾岸戦争のさなか、柄谷行人をはじめとした日本の一部の知識人が「湾岸戦争に反対する文学者声明」を発表した。この声明は、反戦という立場を表しただけでなく、ポスト冷戦世界における日本を再考するような意味合いを持つものだった。本報告では、「声明」とその批判を含めた同時代の議論の分析を通して、「声明」が「日本」をめぐるナショナル・トランスナショナルな問題にどのように応えていたかを検討する。「声明」とその議論の大部分は、日本国憲法と天皇制をめぐるネーションとしての「日本」の問題を引き受け、戦後の歴史化を迫った。一方で、アメリカや東アジアという「他者」を部分的に認識し、トランスナショナルな歴史観の中から暫定的な「日本」の理念を見出す可能性と限界を露わにした。これらの議論は、ポスト冷戦移行の中で一部の知識人が共有した、過去を歴史化することと、過去を超越して未来を創ることの葛藤と切迫感を表すものだった。

以上