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10月

同時代史学会2020年度大会:報告概要

若者の労働と生活から見た学校

杉田真衣

 新型コロナウィルス感染症の拡大が人々の生存を脅かしている。このことを示す一つが、自殺者数の増加である。8月の1か月間に自殺した人は昨年よりも16%増加し、うち男性は6%増であるのに対して、女性は40%増となっている。女性の中でも30代以下が74%も増加しており、とりわけ若い女性の自殺が増えている(「30代以下の女性の自殺 去年比74%増加 新型コロナの影響も」NHKニュース2020年10月2日https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201002/k10012644561000.html)。若年女性を支援する団体であるBOND プロジェクトが公式 LINE 友達登録者の若年女性950人を対象として2020年6月に実施した調査では、外出自粛や休業要請の影響で「体・心のこと」に関して困ったことをたずねる質問に対し、「消えたい、死にたいと思った」と回答した人が69%いた(特定非営利活動法人BOND プロジェクト『10代20代女性における新型コロナウィルス感染症拡大に伴う影響についてのアンケート調査報告書、2020年』)。

こうしたデータに表れている生存の危機の背景には、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で休業となった者に女性、中でも非正規雇用労働者の女性が多い状況があると推測される。政府としても現状を把握するために、2020年9月に内閣府男女共同参画局内に「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」を設置しており、この間の運動の成果もあって、女性が直面している困難は政府としても看過できない問題になりつつある。

 注意すべきは、これまでも指摘されてきたように、新型コロナウィルス感染症が拡大するよりも前から、少なくない若者、特に若年女性が、生きていけるという展望を見出せずにいたことだ。たとえば報告者がおこなってきたインタビュー調査では「できれば30歳になる前に死にたい」と話す若年女性に出会っており、支援者からも同様の声が報告されている。その意味で、現在の若年女性の苦境は、コロナ禍によってもたらされたものではない。問題の背景に1990年代後半以降の若者の〈学校から仕事へ〉の移行の大きな変容があることは間違いなく、その変容はとりわけ貧困家庭で育つ女性たちに深刻な状況をもたらした。と同時に、2000年代以降の学校教育の性格変容によって、苦境に陥っている子ども・若者へのケアが一層困難な状態になっている。

 本報告では、こうした以前からの社会変容と、現在直面している新型コロナウィルス感染症拡大の両面から、学校現場のありようが若者、とりわけ若年女性の困難を深刻化させている状況について考察する。

学校教育における障害者の排除と包摂

河合隆平

本報告では、こんにちの学校において「インクルーシブ教育」が強調されるほど、障害児の排除が進行し、障害児教育の自律性が解体させられていく特別支援教育の現状を扱う。2006年の特別支援教育の制度化以降、障害児学級・学校、通級指導教室の在籍者数は激増傾向にある。これを通常教育からの「排除」と批判するとしても、欧米に比して日本の障害児学級・学校在籍率は低く、通常学級は「インクルーシブ」である。しかし、その実態は公的支援のないままダンピングされた「エクスクルージョン」にほかならない。この事実を差し置いて、経済界が求める「誰も取り残さない教育」(ダイバーシティ&インクルージョン)」を推進すれば、障害児の固有のニーズは差異と多様性に埋没させられていくだろう。文科省の「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」は、通常学級での共学共習を推進するために特別支援学級在籍児童について「ホームルーム等の学級活動や給食等」を「通常の学級」において「共に行うこと」を「原則」とすることを提起している。それは、通常学校において障害児が集合的アインデンティティを形成するために必要な自治的な生活と学習集団を奪うものであり、特別支援学級教育の自律性・固有性を縮減させ、その教育を通常教育の補完機能へと矮小化させることを意味する。

特別支援教育には、Society5.0にむけて「多様な子供たちを誰一人取り残すこと」は許されないことを肝に銘じて、障害児に職業労働に従事する「能力」が期待できなくても無為に生きるのではなく、何らかの「能力を発揮し、共生社会の一員として」分相応に貢献できる「資質・能力」を育成することが要請される。この間、文科省は「雇用」「文化芸術」「スポーツ」「高等教育」等の重点分野を設定した「障害者活躍推進プラン」を打ち出している。障害者に対する社会貢献の要請は、人間を生産性や効率性ではかる価値観の反映といえる。個人が「権利としての教育」を「享受」することを介して社会に「効果的に」作用する仕組みが障害者権利条約のいう「インクルーシブ教育」だとすれば、障害児に活躍や貢献を強要する教育は、もっぱら社会の要請に教育を従属させ、障害児の排除を帰結する。

報告では、障害児からみたインクルーシブ教育の実践と理論の核心が、通常教育の排除性を規制しつつ、障害児教育の自律性と固有性の確保にあることを示す。

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10月

同時代史学会2020年度大会 予告(修正)

 今年度の同時代史学会大会を、下記の日程で実施します。
 新型コロナウィルスの感染拡大状況を見据え、本年度はオンライン開催とさせていただき、ご参加いただくみなさまには、ネット上の安全確保のため、事前登録制とさせていただきます。

 登録については後日当ホームページ、また、本学会メーリングリストにて告知させていただきます。

大会日時:2020年12月13日(日)(午前に自由論題報告、午後に全体会の予定)
全体会テーマ「教育現場の同時代史 ~コロナによる分断を越えて~」
大会特設ページに趣旨文と自由論題報告の概要を掲載しました。

19
10月

東北大大学日本学国際共同大学院 第3回国際カンファレンス・シンポジウム

東北大大学日本学国際共同大学院 第3回国際カンファレンス・シンポジウム
テーマ:日本の「長い1960年代」の変化-社会運動と変動-
日時:2020年12月12日(土)  10:00~18:00 オンラインでの開催
 
報告者・報告タイトル
荒川章二(国立歴史民俗博物館名誉教授)「「無数の問いの噴出の時代」再論」
高岡裕之(関西学院大学文学部教授)「高度成長期日本の社会変動」
油井大三郎(一橋大学・東京大学名誉教授)「世界史の中の『長い1960年代』の社会運動」―ベトナム反戦運動を中心に―」
黒川伊織(神戸大学国際文化研究科協力研究員)「東京から遠く離れてー関西における平和運動の成立と展開ー」
小杉亮子(日本学術振興会特別研究員)「日本の『長い60年代』における学生運動の変化—東大闘争から考えるー」
加藤諭(東北大学史料館准教授)「1960年代における学生運動と大学改革ー東北大学を事例にー」
 
参加を希望する方は、12月5日(土)までに、以下のフォームから申し込んでください。
https://forms.gle/GsSm4Zt9WcyaLhBE7
 
問い合わせ先(参加申込はできません)
gpjsconference ★ yahoo.co.jp
 
主催:東北大学日本学国際共同大学院
https://www.sal.tohoku.ac.jp/gpjs/
第3回国際カンファレンス
https://www.sal.tohoku.ac.jp/gpjs/conference/20201212.html
19
10月

「NHK番組アーカイブス学術利用トライアル」2020年度第3回募集

NHKでは、NHKアーカイブスの保存番組を研究用に利用していただくトライアルへの参加研究者を募集しています。

公募で採択された研究者は、東京ではNHK放送博物館・川口 NHKアーカイブス、大阪ではNHK大阪放送局の専用閲覧室で、ご希望の番組を研究用に閲覧することが出来ます。

○第3回閲覧期間  2021年1月~3月 (1組 20日間まで利用可)
○募集対象者      大学または高等専門学校、公的研究所に所属する職員・研究者、大学院生
○募集締め切り     2020年11月16日
○閲覧場所       NHK放送博物館・川口 NHKアーカイブス・大阪放送局

応募要項等詳しくは、以下のホームページをご覧ください。

http://www.nhk.or.jp/archives/academic/