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9月

日本学術会議法に関する声明

日本学術会議法に関する声明

同時代史学会理事会

2025年9月20日

私たち同時代史学会は、2020年に表面化した日本学術会議第25期会員の任命拒否問題に対し、同年11月6日に理事会声明として「日本学術会議第25期推薦会員任命拒否に関する人文・社会科学系学協会共同声明」に賛同し、被推薦者の任命を強く求めた。また、同年12月13日に開催された2020年度総会において「政府の日本学術会議会員の任命拒否、および学術会議の独立性と学問・表現の自由への介入に対する抗議声明」(https://www.doujidaishi.org/announcements/announcement20201213.html)を採択し、史資料に基づく実証性を重視する本学会の立場から、政府の説明責任を厳しく問うてきた。

このような中、政府は日本学術会議の独立性を高めるためとして「日本学術会議法案」を2025年の第217回国会に提出し、6月11日の参議院本会議において可決、成立させた。しかし、同法は任命拒否問題に対する説明責任を果たすものではなく、これに蓋をし責任を回避する論点のすり替えであり、さらに人事・予算・監督の各面で政府の介入を一層強化し、学問・思想・表現の自由を深刻な危機に陥れるものである。

同時代史学会は、2025年4月15日に公表された日本学術会議の声明「次世代につなぐ日本学術会議の継続と発展に向けて~政府による日本学術会議法案の国会提出にあたって」(https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-26-s194-s.pdf)および決議「日本学術会議法案の修正について」(https://www.scj.go.jp/ja/head/pdf/20250415.pdf)を支持する。

政府による十分な説明がないまま、政府の介入を強化する内容を含む同法案が成立したことに対し、本学会は強く抗議する。

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9月

2025年度大会「『多文化共生』の同時代史――理念と実践の歴史的断層を照射する――」

2025年度大会「『多文化共生』の同時代史――理念と実践の歴史的断層を照射する――」

 同時代史学会2025年度大会を、下記のスケジュール・テーマで開催します。

なお、本年度は対面のみで実施します。

日時

2025年12月6日(土)

会場

名古屋大学東山キャンパス文学部本館、文系共同館1、2階(愛知県名古屋市千種区不老町)

キャンパス・マップ:B4③

https://www.nagoya-u.ac.jp/extra/map/index.html

参加費

無料

日程

10:00~12:00 自由論題報告(会場A~会場D、8名)

12:20~12:50 総会  【会場:237】

13:00~17:30 全体会 【会場:237】

〈報告〉

鄭康烈(日本学術振興会 特別研究員PD(早稲田大学))(13:10〜14:00)

「戦後から現代にかけての在日コリアンの包摂と排除――労働市場における格差・不平等の分析から」(仮)

巣内尚子(岐阜大学)(14:00〜14:50)

「剥奪されたSRHRと移民女性のサバルタン・エイジェンシー―ベトナム人移住女
性労働者の事例から」

〈コメント〉

上野貴彦(都留文科大学)(15:00〜15:20)

蘭信三(国際日本文化研究センター/上智大学/社会福祉法人さぽうと21理事長)(15:20〜15:40)

全体討論:15:50〜17:30

18:00~ 懇親会

全体会 「『多文化共生』の同時代史――理念と実践の歴史的断層を照射する――」

趣旨文

今年はベトナム戦争終結から50年という節目の年である。

「冷戦」と呼ばれた体制が大きく変化する重要な転換点であったこのアジアにおける「熱戦」は、多くの難民を生み、国際的な<移民>の歴史に新たな刻印を記すことになった。

そうした中、日本はそのベトナムを始めとした、東アジア、東南アジアに戦端を開き、地域に大きな変動を巻き起こした主体でありながら、戦後は自らが植民地化した地域からの<移民>については人権を軽視した対応に終始し、ベトナム難民の受け入れも限定的なものにとどまった。

ところが、バブル景気の下での労働者の不足を補うため、いわゆる「日系二世・三世」が「定住者」として日本に迎えられた。そして新自由主義の自己責任の時代において、日本の多くの人々の自衛的なライフ・スタイル選択が少子化を招来するなかで、東アジア、東南アジアから「技能実習生」の名のもとに安価な労働力として多くの人々が日本に迎えられるようになった。とはいえ、「いわゆる移民政策はとることは考えておりません」としながら実際には移民を受け入れるという政府の政治的姿勢の問題に加え、日本と各国の間の歴史問題が禍いし、多くの<移民>たちが不安定な身分のまま日本社会で生きることを余儀なくされたのである。

同時代史学会は、学際的に同時代を扱う学会であり、『同時代史研究第17号』でも「ボーダーコントロールの同時代史」という特集を組むなどの取り組みを続けてきたが、目下最大の問題であると言ってもいい、日本社会の「内なるグローバル化」における<移民>の「排除と包摂」の問題、換言すれば「多文化共生」という言説が肯定から否定へと転じているかのような昨今の問題を改めて正面から扱わなければならないと考え、従来からこの問題に取り組んできた社会学者の力を借りて、この問題の歴史的再検討と将来への視角を得ることを企図するに至った。加えて、「特別永住者」として扱われている在日コリアンや在日中国人も視野に入れ、より広い視野で戦後の日本における、国境を超えた人の移動を捉え直すことを目指すことにした。

なお、日本語の<移民>という用語法は、かなり不安定で、誤解を招きやすいものになっている。世界的に見れば<移民>(migration)は、将来的な永住を前提とした移住に限定されないし、国内における人口移動をも含む概念である。そもそも国境を超えて移動する人々には様々な背景がある。ところが日本語の<移民>という言葉は、政治的なコンテクストや、過去の日本からの出移民に対する情緒的な把握などが介在し、世界的に見れば特殊な、しかし一定しない、非常に厄介な使われ方がなされてしまう。とはいえこの用語法の混乱を注視することは、<移民>をめぐって抱え込んでいる思想/思考の上での混乱を解きほぐす糸口になるのではないかと考えられる。

そこで本年度の大会では、既に世代を重ね、複雑な階層性と交差性を有している在日コリアン社会を研究されている鄭康烈氏、ベトナム人実習生の研究を続けてこられている巣内尚子氏に報告をいただき、これにヨーロッパの移民問題に取り組んでいる上野貴彦氏のコメント、および帝国崩壊と人の移動を歴史社会学から追求しいまは難民など外国ルーツの学生支援や教育支援をおこなう団体の理事長として現場でも活動する蘭信三氏のコメント、以上の4名によるセッションを開催し、会場の出席者とともに議論を深めることとしたい。

振り返れば、当学会は既に数々の大会企画や研究会で、社会学をはじめ、人文社会科学の諸分野との交流・議論を重ねてきた。<移民>という課題の今日性に向き合うとき、この姿勢は重要な意味を帯びてくる。

本大会では、<移民>に関する現状分析を主題とする報告を行い、その内容をめぐって歴史的な射程を持ちながら議論を行う形とした。排外的な主張が繰り出される今日の状況を踏まえた上で、歴史を改めて捉え直し、思考をめぐらすことにしたい。

参加者諸氏の活発なご議論を期待する。