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12月

第47号【吉見裁判第一回・第二回口頭弁論参加記】

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          同時代史学会電子メールニュース
                    第47号(2013年12月24日)
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※今号では、吉田裕代表より紹介のありました、吉見義明氏(中央大学教授)
 が桜内文城氏(衆議院議員)を名誉棄損で訴えた裁判の第1回・第2回口頭弁
 論参加記を配信します。
 なお、メールマガジン発行担当の手違いのため、第2回口頭弁論までに第1回
 分の参加記を配信することができませんでした。付してお詫び申し上げます。
 (長谷川)
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   吉見裁判 第一回口頭弁論(2013年10月7日)参加記
                              一事務局員
 10月7日、東京地裁で第一回口頭弁論が開かれた後、17時半~18時半にかけ
て霞が関の弁護士会館にて「吉見義明裁判報告集会」が、開催されました。
100人規模の会場は満席となり、主催者側が用意した「資料集」も足りなく
なるほどでした。
 司会進行は、裁判支援のための有志組織から本庄十喜さん(歴科協委員)が
つとめられました。
 まず弁護団から経過と概要の説明があり、吉見さんの法廷陳述が紹介され、
最後に、今後の「支援に向けてのお願い」の呼びかけがありました(支援団体
づくりのカンパでは、43840円が集まりました)。
被告側主張のポイントは、どうも
・名誉棄損の対象とされている、「これは、既に捏造であるということが、い
ろんな証拠によって明らかとされています」という桜内議員発言の「これ」が
指すのは「sex slavery」であるという主張であるので、吉見さんの本そのもの
ではない、ということになる。しかし被告の陳述の全体を通してみると、
「「慰安婦」が性奴隷だという主張はねつぞうである」、といいたいようであ
る。
・吉見教授の著作とその英訳書は、【慰安婦が「性奴隷」である】、という政
治的主張をなしている。
というところにある模様です。
 9・26付答弁書から引用すれば、
「8 原告の主張が悪質なのは、原告自身の著作物等に照らしても、『慰安
婦、すなわち日本軍の性奴隷』と断定するのは到底不可能であることを研究者
として熟知しつつ、英文翻訳を出版して、『慰安婦、すなわち日本軍の性奴
隷』と断定して自らの主張を世界中に撒き散らしたことである。
かかる原告の主張と行為は、日本国及び日本国民の名誉と尊厳を故なく毀損す
るものであって、断じて許す訳にはいかない。
「9 従って、原告が英文翻訳で『従軍慰安婦は軍による性奴隷であった』と
記述し、…断定した『慰安婦、すなわち日本軍の性奴隷』との主張は『捏造』
である。」
なのだそうです。
 被告側の戦術はまだよくわからないところも多々あるのは事実ですが、原告
弁護団の大森典子弁護士が「裁判が本格化する」と述べ、渡邊春己弁護士が、
「確信犯として、真っ向からきた」と述べた所以です。
 かくしてこの裁判では今後、日本軍「慰安婦」をめぐる核心的認識が、法廷
の場で争われることになりそうです。
 裁判では、研究内容とその評価にも踏み込むことが予想され、歴史研究とし
てどのように対応してゆくか、検討を深めたいところです。
・吉見さんご自身は、「これまで裁判支援はしてきましたが、今回はじめて当
事者、いわゆる原告というものになりました(笑)」とにこやかに支援を要請
されました。
  ※裁判長の小林久起は、東京地方裁判所部総括判事。
  司法と検察を交互に渡りあるき、異動人事で2004年から東京地裁に移り、
  2011年より総括判事就任という経歴の方です。↓
        http://www.e-hoki.com/judge/1125.html?hb=1
・当日、ネット右翼による動員はかけられなかった模様です。しかし、桜内議
員は「チャンネル桜」やSNS等のサイトを通じ、「国益のため負けられない裁
判」と呼号して、ネット右翼に広く支援活動を呼びかけています。口頭弁論二
回目以降、新たな動員がなされる可能性は、予測しておく必要があります。
以下、第2回口頭弁論と支援ネットワーク発足集会のお知らせです。どちらも
ふるってご参加下さい。
       ◇◆◇吉見義明裁判第2回口頭弁論のご案内◇◆◇
日時:2013年12月11日(水)15:00~
※当日14:10から20分程度傍聴券配布が予定されています(お早めにお
集まり下さい)。
場所:東京地方裁判所 103号大法廷(直前の急な変更もございます。念の
ため事前にご確認下さい)
東京地裁住所:東京都千代田区 霞が関1-1-4(地下鉄東京メトロ丸の内線・日
比谷線・千代田線「霞ヶ関駅」A1出口から徒歩1分,地下鉄東京メトロ有楽町
線「桜田門駅」5番出口から徒歩3分)
HP:http://www.courts.go.jp/tokyo/
※裁判終了後、17:00から弁護士会館1008号室(東京地方裁判所隣)
にて報告集会も開催いたします(参加費500円)。奮ってご参加下さい。弁護
士会館住所:東京都千代田区霞が関1丁目1番3号
連絡先:YOSHIMI裁判いっしょにアクション(1月の立ち上げに向けただいま準
備中です)
メールアドレス:yoissyon★gmail.com
   ◇◆◇YOSHIMI裁判いっしょにアクション発足集会のご案内◇◆◇
吉見義明(日本近現代史・中央大学)氏が桜内文城衆議院議員(日本維新の
会)を相手取り争っている名誉毀損裁判の支援ネットワーク(YOSHIMI裁判い
っしょにアクション)が2014年1月に正式に発足します。それに伴い、下
記のとおり大集会を開催する予定となりました。つきましては、多くの方のご
参加・ご支援をよろしくお願いいたします。
日時:2014年1月11日(土)
14時~16時半(開場13時半)
会場:在日本韓国YMCA アジア青少年センター
住所:〒101-0064 東京都千代田区猿楽町2-5-5
電話:03‐3233-0611
主な登壇者:吉見義明氏、大森典子氏他弁護団、梁澄子氏、他調整中
参加費:800円(学生500円)
お問い合わせ: yoissyon★gmail.com
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   吉見裁判 第二回口頭弁論(2013年12月11日)参加記
 
          YOSHIMI裁判いっしょにアクション準備会 一事務局員
 
 12月11日、東京地方裁判所103号大法廷において、吉見義明教授(中央大
学)が桜内文城衆議院議員(日本維新の会)を名誉毀損で訴えた民事裁判の第
2回口頭弁論が行われました。当日は約90枚の傍聴券を求め、130人余りが列を
作り抽選が行われました。この裁判の注目度の高さがうかがえます。
 15時過ぎから開始された口頭弁論では、まず、被告の準備書面の要約を代理
人の荒木田修弁護士が述べました。これに対して原告代理人である川上詩朗弁
護士が反論し、渡邊春己弁護士が次回の裁判で主張する要点を提示して、30分
ほどで終了しました。
 被告側の主張の要点としては、原告は名誉毀損の請求原因を特定できておら
ず名誉毀損の成立要件を満たしていないため、不当な提訴であるということで
す。具体的には、被告が橋下大阪市長の記者会見の冒頭で述べた「これは既に
捏造だということがいろんな証拠によって明らか」の「これ」は「慰安婦が性
奴隷である」ということであり、原告の著作を示さない。捏造というのは「事
実でないことを事実のように拵えて言うこと」であるので、「慰安婦が性奴隷
である」というのは概念であり事実ではないので名誉毀損は成立しない。仮に
原告の主張通りに「これ」が著作を示すとしても、著作は本であるので事実で
はなく、名誉毀損の要件を満たさない。また、「慰安婦が性奴隷というのは捏
造である」という主張は、被告の独自の説ではなく多くの学者や評論家、漫画
家などが主張しているので被告のみを訴えるのは不当である。被告の発言は対
立する学説を否定するためのものであり、慰安婦が性奴隷か否かの論争として
とらえるべきで、邪馬台国畿内説・九州説の論争と同じものである(!)。す
なわち、被告の発言は名誉毀損には当たらず、不当な提訴である、と主張して
いました。
 原告側は、問題となっている「これ」の前には「慰安婦が性奴隷」という発
言は全く登場しないことから被告の主張は全く成立せず、「これ」が原告の著
作を示すことが明らかであり、被告の主張は全く独断で非常識な解釈だと反論
しました。また、社会通念上「著作が捏造」だと言う場合、「著作の内容が捏
造」といっているに等しいと主張し、これに対しては裁判官から、多くの場合
そうであるとの理解を得られました。原告側は、次回以降指示語である「こ
れ」が指示する語句を発言の文脈から特定させるとともに、被告の発言は原告
の社会的評価の低下をもたらしており、名誉毀損の要件事実を満たしているこ
とを判例を摘示する事で明らかにすると述べました。
 続いて17時過ぎから、弁護士会館において「YOSHIMI裁判いっしょにアクシ
ョン(略称YOいっション)」準備会主催の裁判報告集会が行われ、約40名が集
まりました。本集会では弁護団による今回の裁判の解説や、荒井信一氏と西野
瑠美子氏から本裁判と関連して日本軍「慰安婦」について理解を深める報告が
ありました(カンパでは、10,873円が集まりました)。
 渡邊弁護士の解説によると、今回の裁判で被告側が「原告が請求原因を特定
していない」と主張したのは、この線から攻めるのが最も裁判所に受け入れら
れやすいと判断したからだとみられます。しかしそれでも無理のある主張であ
り歯切れが悪いものであったということです。これに対して裁判所は被告の主
張には乗らず、原告側に反論の機会も与えられました。今後裁判は通常の名誉
毀損裁判として進行する見通しであるということで弁護団は手応えを感じてい
るようでした。次回以降はこれまで以上に丁寧に名誉毀損が成立するという主
張を行なっていき、原告の著書のどの部分が捏造なのか被告に明確にさせてい
くということです。また、傍聴人や原告側弁護団の多さは、裁判所の判断に確
実によい影響を与えているということでした。
 続いて荒井信一氏が、「慰安婦、すなわち日本軍の性奴隷」という用語・認
識は、国連の人権機関において1996~97年頃には成立していたことを具体的な
資料に基づき説明し、「慰安婦、すなわち日本軍の性奴隷」が原告の捏造だと
する被告の主張は完全に成り立たないことを示しました。
 また、西野瑠美子氏が、最近の日本軍「慰安婦」をめぐる新聞記事が紹介し
ながら、メディアによる日本軍「慰安婦」への認識を後退させる動きが活発化
していることを指摘して、本裁判の重要性を訴えました。
 原告の吉見氏は、この裁判での被告の主張は無理があるのは明らかであるの
で、すっきり勝たなければならない、特定秘密保護法も成立する社会状況の中
できちんと意見を表明することが重要であり、おかしいことにはおかしいと言
わなければならないと述べました。
 被告側は、被告本人のTwitterでの傍聴の呼びかけもむなしく動員について
は劣勢を感じているようで、次回はより動員をかけてくることが予想されま
す。また、法廷で有効な主張ができないことから、「原告は裁判にあたりいい
かげんな書面しか出さず、不当な提訴である」というような主張を法廷外で展
開する模様で注意が必要です。またこの裁判を「『慰安婦=性奴隷』捏造裁
判」と位置付け、その主張をあらゆる手段を使って撒き散らす機会としてお
り、予断を許さない状況であることには変わりません。
 被告側は、法廷において、上記で紹介した以外にも、発言者本人は「これ」
を「慰安婦は性奴隷」を指すつもりで発言したのだから、この発言は発言者の
意図通りに解釈しなければならないというめちゃくちゃな責任回避を行ってい
ましたが、これはもはや被告の政治家としての資質を疑うしかありませんでし
た。また、邪馬台国論争を持ち出してきて議論を撹乱するなど、これらの主張
には説得力が全く無いどころか、「言葉遊び」に終始しています。被告側は裁
判の結果を重視しているというよりも、法廷内外であらゆる方法を使って吉見
氏の人格や信用をおとしめ、日本軍「慰安婦」は性奴隷であるという事実を隠
ぺい・歪曲することが目的であると判断せざるをえず、これは卑劣きわまりあ
りません。
       付記 第三回口頭弁論について
 第三回目の口頭弁論は次のとおり行われる予定です。傍聴を通じてご支援を
お願いします。
 日時:二〇一四年三月三日午後三時
 場所:東京地方裁判所103号大法廷
傍聴券は抽選となる見通しです。
なお、終了後、報告集会を開催する予定です(会場、時間未定)。
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担当    長谷川 亮一
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3月

第9号

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          同時代史学会電子メールニュース
                    第9号(2009年3月11日)
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※第21回研究会でコメンテーターをされる矢野敬一さんより投稿がありました
 ので、ご紹介させていただきます。なお、矢野さんのウェブサイトは
 http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~ebkyano/
 です(長谷川)。
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 14日にコメンテーターをいたします静岡大学の矢野敬一です。せっかくの機
会ですので、現在私が関心を持っていることについて、その折、ご教示いただ
けたらと存じます。よろしくお願いいたします。
 今の私の関心の一つは、昭和戦前期、柳田国男が同時代の学知の中でどのよ
うに位置付けられるのか、という問題です。鹿野さんの『近代日本の民間学』
では民間学は第一義的には「運動」として存在していたという指摘があり、ま
たそうした文脈の中で柳田も論じられています。そのあたりをもう少し、国史
学との関連で掘り下げられないか。論点を具体的にいえば、下記のようになり
ます。
□国史学での読者(とりわけ教員層)リクルートの手法
 柳田国男は大正から昭和戦前期にかけて『郷土研究』や『民間伝承』といっ
た雑誌を立ち上げ、「紙上問答」欄や民俗語彙の紹介欄を設け、読者の投稿を
促し柳田と読者、あるいは読者相互のコミュニケーションを図る仕掛けを施し
ていきます。そうした雑誌誌面への参加の感覚をもたらすことによって、読者
をリクルートしていったわけです。特に『民間伝承』での読者として想定され
ていたのは、教員層でした。
 その一方で国史学では、同様の取り組みがたとえば大正期までの日本歴史地
理学会の『歴史地理』でなされていました。喜田貞吉は明治42年に同誌で、読
者相互が「遺蹟遺物記録伝説」の調査結果を誌面に相互に報告しあうことを求
め、また誌上には「問答」欄も設けられていたのです。しかしそうした取り組
み姿勢は大正中期には希薄になっていきます。
 国史学では、昭和戦前期にあってアカデミズムに向けてより広範な読者層
(とりわけ教員層)をリクルートしていくような仕掛けは、どのように作動し
ていたのか。例えば地理学では文検のような資格試験合格のための動機づけ
が、読者をリクルートする回路として作用していました。昭和初年でいえば日
本地理学会の会員は百人に満たないにもかかわらず、学会誌『地理学評論』の
部数は1千を超えていたのです。日本地理学会の会員が文検の出題者であるた
めに、試験対策として学会誌が文検突破を目指す教員層に読まれることになっ
たのです。
 国史学でも、同じような状況は見られたのでしょうか。それ以外にも国史学
へといざなうような、読者への働きかけはどのようなものがあったのでしょう
か。民間学の「運動」としての側面に対して、国史学の「運動」としての側面
はどう考えられるのか、ということです。そこから柳田の立ち位置も、改めて
見えてくるような気がします。
なおこれと関連する拙稿として、「戦前における柳田国男著作の受容 ―櫻井
徳太郎文庫所蔵書籍を事例として―」があります。
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/handle/10297/2400
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担当    池田慎太郎
編集・管理 長谷川亮一
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